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野狐、跫音に怯える


 マンション管理組合の理事長様でもある野狐様は、ここ数日の夜、人気のない管理棟を施錠して中に閉じこもり、事務所で不正の証拠を掴まんと黙々と働いていた。






 初日のこと。突然、人の気配と共に受付用の小窓がカタカタと鳴る。事務所からエントランスに出てみると誰もいない。むろん霊感の強い野狐様のことだから、人の気配といっても生きている人とは限らない。霊媒って条件が揃わないと便利じゃない。


 その後、二階の書庫に閉じこもり、更に調べものを続ける。すると、階段を上ってくる足音がする。そして、ぱたん、と扉を閉じる音がする。施錠しているはずなのに他に鍵をもっている誰かが来たのかと……(というより証拠隠滅を計ろうとする奴が来たのかと)……書庫を飛び出した。が、誰もいない。


 再び書庫に閉じこもって調査していると、またパタ、パタ、パタ、と足音が聞こえてパタンと扉が締まる音がする。ハ!! と思い、あわてて階段を駆け下りエントランスにいってみると、……再びパタンと扉が閉まる音がして女性が一人スタスタと歩いていく。宅配ボックス室に出入りする音が二階に響いていたのだった。……


 ……幽霊の正体見たり……


 翌日も夜に管理事務所で調べものをしていた。ほぼ調査資料が集まり、後は管理会社の人と善後策を打ち合わせるだけだ。するとカタカタと、受付の小窓が鳴る。又か……と思いつつも、感じるものがあってエントランスに出てみたら、管理会社の人がちょうど現れた。鍵をかけて奥にいたから、ひょっとしたら気がつかなかったかも。危うく閉め出したままにする所だった。しかし、この運の良さを黙ったまま、二階でミーティングを始めた。


 一段落ついた時、雑談として足音の話をした。「幽霊の正体見たり!」ということで爆笑となった。そして、そのうち理事会で肝試しをやろうなどと軽口を聴いていると……部屋の北西角で「パシ!」と強いラップ音がする。管理会社の人はビクッとしたものの、ラップ音=心霊現象という知識を持っていなかったらしい。


 ああ~~ 証拠隠滅を計られたりしないように、こっそりと調査をしているからついつい足音などに敏感になってしまう。一応、会社などでも事情を話し、殺されたらあの人だから……などと軽口をしている。


 でぇ もぉ 


・・・実は調査開始の日に偶然、知人が自殺していて、放置プレイは続いていたりする。


 さて、調査が一段落して、どう告発するかというミーティングが始まる。


「相手は独善的な人だから誰がどう話しても感情的になるだろう……どうしようか。」


 結論のでないまま、今日は解散。そして帰宅後に気がつく。話しかけようとするから拗れるんだ。相手が罪の意識に参って、「どうしたらいいだろう」といってくるのを待つのが一番か。


 うーん。放置プレイもこれまでかな。


 その後、「中継霊にどうか?」と申し出を受けたけれど、任期が終わるまで心霊どころじゃない。






こういう調査に霊感が役立たないか……て?


 役に立つさ、不正に最初に気がついたのが野狐様。というか、証拠固めはほとんど私の手柄。皆が見落としている事に欲気がつく。すると警察などへの協力にも役に立ちそうなものだけど、話はそんなに簡単じゃない。


 相手の祖先の霊がみえて、「目こぼし」を懸命に頼んでくる。


 相手にだって、案じてくれる家族がいるのだぞ! それを泣かすようなことをするな、と説教する霊もいる。でも、なまじ同情して調査に手を抜くのは自殺行為だ。窮鼠猫を噛む。小悪人は開き直った時が一番怖い。大悪人ならすぐに観念して再起を目指すが、小悪人はこれで終り、これで終りならいっそのこと!! となってしまう。


 がっちり証拠を掴み、ただ、そして小出しにする。その為には調査をおろそかに出来ない。実は、この調査が始まってから、胸がムカムカして具合が悪い。たまにこういう調査をするから何とかなるけれど、繁雑にこういう事をすると証拠を掴むよりも疲れ果ててしまう。


 正直もう止めたい。






ところで、この不正調査のターゲット。ある人に突然、


「もう管理組合なんて関わる鳴って、母親にいわれた」


と、ぽつりと言ったとか。


あんな人が何で?  と皆が不思議がるが祖先の霊が言わせているのだと思う。



泥縄って言葉があるけれど、アミを編んでいたら、そこに魚が落ちてくるような、そんな解決になりそうな気がしている。



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