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岩窟訪問

2004/07/27

 この夜は、どうにも寝苦しい、うつらうつらして、ふと気がつくと崖の前に立っていた。又幽界である。中ほどに木製の格子がはめ込まれた丸い穴があいていて、そこまで崖が石段状に刻まれている。

 せかされてその階段を上る、私を急かしたのは三人の天狗の子供達だった。

『面白いところがあったら案内しろといっただろう?』と言われた。うーん。明日の寝不足が怖い。第一、覚えてメモが取れなければ意味がない。まあいいか。

 穴をのぞいても中は真っ暗で何も見えない。すると子供たちは穴に向かって盛んにはやしたて始めた。なんと乱暴な事を……と思って子供等に尋ねると、この穴には隠者が住んでいて、どんなに声をかけても決して出てこないのだそうだ。出てこないのが修行なのだから声をかけるのは悪い事ではないという。やれやれ……子供等とともに石段を降りて腰をおろす。

 「どんな事情があるのか知れないけれど、こもっている者を引きずり出すのも意地の悪い話ではないか……」いい終わらぬうちに人の気配にふと振り返ると、背後に身の丈60センチほどの髪はぼうぼう、ヒゲぼうぼう、ぼろぼろの野良着のような服を着ている一人の男が立っていた。

 「ちょっといいか」男は話し出した。

 「あんたの噂は聞いている。私はこの穴にこもっていたコウというものである。見てのとおり人として生を受けた事のない男だが、長い事、人世を見ていてふと疑問に思ったことがあり、出家……といっても僧になるわけでもなく、神様からのお勤めを一切断ってここに暮らしている。

 疑問というのは他でもない。なぜ人々の魂はいろいろと修行をさせられているのに、わしら自然霊の者どもはいつまでも同じ仕事で代わり映えもない暮らしを続けるのだろう。わしらだって修行をしてはいけない法はあるまい。だが、修行する機会がトンとないのはなぜだろう。わしらはお造りになられた神様に見放されているのだろうか……」

 いい終わらぬうちにコウは頭を抱え込んだ。そばにいる私にもわかるたくさんの思念がコウの元に集まっている。

 思わず私が呶鳴りだした……いつものように

 『うるさい、うるさい、うるさいあっちへ行け、低級霊どもめ、人が真摯に考えているのにすぐにくちばしを挿みやがって、お前等の考えなんて風で木の葉が舞う程度のつまらん物じゃないか。』無理に言葉にするとこういう感じだけど、要するにつまらぬ話は聞きたくないという意思表明をバンと送りつけた。そして、不満げな気配とともに雰囲気がだいぶ静まっていった。

 「私にも覚えがあるよ。なんかちょっと哲学的なことを考えようとすると、途端にそれは違うとか、これはああだとかいう霊信が頭の中になだれ込んでくる。自分たちはこれだけ難しい事を知っているんだ、と自慢したそうな感じでね。だけどさ、事実にそんな違いがあるはずはないのだから、現実を知る霊からの通信ならごった煮みたいな意見になるはずがない。奴等、知らないくせに知ったかしているんだよな。」

 コウはしたりと肯いた。……私の事を知っているというのは、この怒鳴り声を聞いていたということか。

 「だけど、自然霊が修行しちゃいけないなんて法はしらないし、それどころか修行がないとも思えない。それにしてもこんなにくだらない霊信がなだれ込んだら思索も出来やしないよな。」

 すると助言者を送る……という声が鳴り響き、私の目の前に、一人の女性の霊が現れた、私の良く知る、先生の守護霊だ。

「そう、間違った考えは霊界(幽界)中に蔓延しているの、その考えの一つ一つを神様達は正したりしません。ただ、正しい思索は神様の御胸とつながるでしょう? すると暖かな同意の念をいただけます。そういう思索が正しくて、他にいろいろと考えているのは周囲の霊達の雑念に巻かれて迷子になってしまうからいけないのです。常に精神統一を心がけなさいね。霊界でいろいろ考えるというのは風の吹いている中に旗を立てるようなもの。途端に風に巻かれて足元が揺らぐものなのですよ。」と、教えて去っていった。

 なるほど……と思う。そういえば、理屈っぽい私の事を良く叱っていたっけな……と思いコウの方に振り向く。

「人は体の中にもこもって、他人の思念に鈍感になっているから自分の考えを養えるのに、私は洞窟にこもっても、何か考えるたびにいろいろな思念を寄せられてしまう」とうなだれてしまった。

「私は間違った事を考えたいのでなく、いろいろと考えてみたいのだ。それだけなのだが」

 他人事ではない。自分らしく考える事が叶わない世界なんて、私にとっては地獄に均しい、すると天の声が聞こえた。

『幽界というのは、お互いの距離が近すぎるのだ、だからたちどころにいろいろ学べるが、自分の考えを育てるのは難しいところだ、もっと高い霊界に上っていけばいくらでも自分の考えを育てていけるよ、暫くの辛抱だ』と聞こえた。そんな言葉に関心を持つ間もなく自分の意識が変わるのを感じた。私に支配霊が懸かったのだろう。

『コウ、お前は人まねをして言葉で理屈を考えようとしているだろう。だが、人の言葉というのは意見を伝えるのには便利だが事実の半分も伝えられぬ愚劣なものである。お前が思索に用いるべきは神の言葉であって、それに慣れれば幽界にあっても思索は出来る。みよ、欲深い人を見て考えるのにいちいち欲深い人を思えば、不快な霊達とつながるのは当然の事である。下を見ずに、上を見て考えなさい。お前達自然霊は、修行をしていけないのではない、無駄な修行をする必要がないのだ。人間のマネなど下らぬ。さあ、手伝ってあげよう。』

 我に返ると、私の目の前には三人の天狗の子供がいて、見上げるとコウは洞窟に戻るところだった。どうやら、納得したらしい。

『また訪ねてきておくれ』……声だけで姿の見えぬコウに向かって手を振りつつ、天狗の子らと帰途についた。……筈が、気がつくと朝だった。

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