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霊界の喧嘩騒ぎ

2004/07/26

 深い眠りに落ちるつもりが、むしろ頭がクリアーになった。

 私は今、杉木立を天から見下ろしている。木々の間には天狗と思しきものたちが数十組、棒や木刀で打ち合っている。まるで剣術の練習風だ。とはいえ、その光景は冷静になってみると滑稽でもある。実際の杉林というより、墨絵のアニメーションみたいな光景で、注目すればいくらでもディテールが見えるのに、全体はなんともとぼけた線画調にしか見えない。まるで、大昔のコンピューターゲームのようだ。

 でも冷気を含んだ春先の風のような、さわやかな気配と木々の香りが感じられた。

 観察していると、声を懸けられた。気がつくと隣に天狗がいた。

『随分と怖い思いをしたようだな。だがどうだ、ここの景色は』

『とてもすがすがしい。きもちいいよ』

『よければ遊んでいけ』

 地上に降り立った私の周りを取り囲んだのは、14、5歳の子供に見える天狗達だった。いや天狗といっても山伏風の衣装をしていて、手や顔の毛が濃いというだけのこと、別に烏天狗もいなければ鼻の長い大天狗もいない。で、わたしは子供の頃から天狗伝説のある神奈川の山々が好きであったので、別段天狗に警戒心もなく、天狗の輪に囲まれた事を素直に喜んだ。

 そしてせっかくだからと、先に見た夢の話をした。

 『君等、霊魂なのに個人の鍛錬をしていたね。でもつい先ほど、私はとても怖い思いをしたんだ。子猫のいたずらを邪魔したら、怒らせてしまい、気がついたらたくさんの猫達に襲われたんだよ。いや、ほうほうの呈で追い払ったのだけど、してみると、棒やら木刀やらでいちいち打ちかかるのは、ああいう場合、身を守る事にはならないと思う。もっとうまい方法を練習しなくていいのかな? それでなくても個人競争よりも、協調性を伸ばすような鍛錬が必要なのでは?』と問い掛けると、口々に、私等のやり方が一番いいに決まっている。他にどんな方法があるのかさ……と、いいはやすので、たとえば……と、実演して見せた。なにせほら、想念の世界では風景さえも、関係者全員の心だから、共有する魂が清らかならば、清らかな風景になるし、いたずら想念を抱けば大地も揺れるわけで……まあ、何とか、ビビラせることに成功した。

 指導役の天狗が言うには、

『うーん。こういうことは試した事がないが、お前の言うように怖い思いをすることがあるなら、わしらもこういう事を学ばねばなるまいな。だが、その前に長老に話をしてみなければなるまいて。』

 すると突然、天にいくつか黄色い光球が現れた。中の一つはオレンジがかっているのが少々気になったが、一番大きな光球が『わしは杉山僧正である』と名乗った。

 ふと気がついて、霊体に意識を集めると、五人の取り巻きを連れた、一人の天狗が見える。幽体と霊体とを同時に見るのはテレビのザッピング見たいでどうにも落ち着かない。幽体の天狗たちにとりあえずいとまを告げて、杉山僧正に意識を集めた。


 岩間山人で有名な杉山組正か……と思うが、どうせ審神《さにわ》の方法もない。事実は追々明らかになるのだろうから、とりあえず、その名を信じる事にした。なお、何度か字を確認したが、「杉山組正」ではなく、この天狗は「杉山僧正」だそうだ。これは僧侶の階級ではなく、修験道の階級だということだ。

 さて、ざっと事情を説明すると、杉山僧正は、

『なるほど、そのような思いをしたのであれば、身を守るのに工夫が必要だろうな、だが、果たして私の術が、お前の術よりも劣るものだろうか。これは一勝負せねばなるまい。』

 別に敵意があるわけでなし、私も思い上がって勝負を挑んだわけではなく、ただ、体験談を語ったのみ。試合程度の事ならばおじけ付く必要もないことと勝負を受けた。すると僧正は、

『では早速幽体を用意いたす。しばしば待たれい』という。

『ちょっと待った! 何で霊体のままではいけないんだ? やり方に違いがあるわけじゃなし。』

 怪訝な顔をして僧正がいう。

『霊界というのは調和が大切な世界である。そこで試合といえども乱闘を行うのは決してよろしくはあるまい。だから幽界に降り立って試合をせんというのだ。』

『だって、悪い霊だって幽体を失って霊界に行き、わるさをするかもしれないじゃないか』

『そのような輩は神様がご処分いたす。わしらが考える事ではない。』

『それは常識で、何も乱暴な方法で身を守るというのもおかしな話。なら、なんで、若い天狗たちには武術を習わしているのですか?』

『それは精神力の鍛錬であり、身を守る為にでは御座らん』

『だったら、霊体で試合をしてもおかしくはないはずです。別に悪意で持って争うわけでなし。』

『それもそうだ……』

 なんだかバカらしくなり結局、幽体をまとって子天狗たちの下に降り立った。

 口々にどちらが勝ったのかと子天狗が聞く。

『うむ、競う事には意味がないと話し合いで決着がついた。霊界では皆こうして話し合いで決めるのじゃ。天狗らの武術にはなるほど個人を大切にするという欠点があるのは、この人のいわれる通り、それはわしらの負けじゃ。だが、皆、自分を鍛えようとするのは大切な事じゃ。そのことはわしらの勝ちじゃ。』

『フーン』と子供達。皆怪訝な貌をしている。

 こうしている間にも、この天狗達のかもし出す雰囲気がとても気に入って、私も別れ難くなってきた。でも……

『私はそろそろ戻らないと。身体の疲れが取れないと明日の仕事に差し支える。話は途中になってしまうけれど、いずれどこか面白いところがあるならつれていってよ……』と、童心に帰って挨拶する。それに子供達が応じてくれた。かわいいけれど、たぶん地上的な視点で、この子らを見たら私はビビるんだろうな。

 僧正の取り巻きの一人が別れしないにこう挨拶した。

『先ほどは、自慢話の好きな奴とばかりに、偏見を持って悪かった。奇抜なようで見たままをいっていたのだな……』

色の濃い光球に見えた霊だった。

 そして再び眠りに落ちた。

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