知ることが出来ない

2007年04月10日


衣食足りて礼節を知るというし、忙しければ寛大さもおざなりなのが人の常であるが、一時の情や都合に流されず、理をわきまえて物事に接するのは当たり前のことである。それが出来ないのは、告白であって言い訳でなく、ましてや自慢の種でもない。

都合の良い時には寛大であろうとも、いざ自分が窮地に立てば、わきまえもなく大騒ぎをするのは、ただ人の性が素直に現れて霊性の働き薄く、風に旗がなびくのと同様、風の働きとも、旗のあり方とも区別かつかぬ。

人足るもの、風に吹かれて容易に動かず、波にさらわれても、ただでは流されずにあるようでなくては、人生の吉凶も激しいだろう。すると往々、人は不幸に会っては世を妬み、幸運にあっては増長し、運の善し悪しを喜怒哀楽だけで感じ取って、失敗から学べず、成功を保てず、物事の道理を深く掘り下げない。

忍耐の果てにある達成感や、カゲロウのように儚い幸せなど、知ってはいてもおとぎ話の一小話でもあるかのようにうわの空で、いざという時に思い出すこともない。

物事には仕組がある。往々、その仕組には手が届かぬが、多くの場合、善く行うから善い結果を得、悪く行うから悪い結果を得るのが人生だ。

災難に遭っては誠意を尽し、幸運に合って身を慎しんでなお、大変なのが人生であるのに、その反対に生きてどうするのか? ――事実は、何とか成るものである。ジタバタして自滅しない限りは。

真面目な人は、ただ真面目であるから真面目に生きるだけだが――それを見て、疑問に思う人もいるだろう。「一体、真面目に生きる価値は何か」と。

ただ、期待を裏切られることが減って、将来の恐れも消え、納得が増えて、努力が苦にならなくなること――せいぜいがその程度か? だが、その程度すら手に入らずに懸命に救いを求める人もいる。

禅者はいう。「生きる時は生き、死ぬときは死ぬ。病なら病なりに生きよ」と。その言葉を聞いて安らぎを得るものもいる一方で、仏教の教えなどクソの役にも立たぬという者もいる。―確かにそうなのだ。内容が同じでも、会得する者はそれを活かし、理解できぬ者には役に立たないのが智慧であるのだから。

一つの智慧で、救われる者と、救われぬ者がいる。智慧に力があるのではなく、智慧を生かす力の有無なのである。

同じ無智にも、理解する力があるが、ただその機縁《チャンス》に巡り会えなかった無智と、たとえ機縁《チャンス》があっても、理解する力が無くて知り得なかった無智がある。

答は内にあり、知り得る答えも、為し得る実力も決して平等ではなく、要求される努力も異なる。――そして、努力が必要なのに、努力を惜しむ者が苦悩して得るものが少ない。無駄な苦悩はなるほど無いが、苦悩を無駄にしている人は数限りない。

知らないのではなく、知ることが出来ないのだ。答がないのではなく、理解できないのだから。――遠い道を行かねばならぬのに、近道を探す。近道とは、迂回している人の持つ特権であって、ただひたすら歩かねばならぬ人の持つはずのない道である。


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