地球幼齢期は続く


 多くの心霊思想は「霊性向上」を人生の一大事と見なします。しかし「霊性」に関する見解が様々に分れるのは、滑稽であると同時に暗示的でもあります。

 ―― 人の理解力には限界があり、さらには個体差がある。

 人々はたとえ同じものを見たとしても、誰もが同じ見解に到達するとは限りません。それ故に、互いが知りたる真理の真偽を論じ、優劣を競うのは愚かというべきです。

 真理とは普遍で絶対なものであり、議論の余地があるのは真理とは呼び得ません。(例;「死は避けられぬ」等、または「神は絶対である」も真理に属しますが、これは迂遠な、というより宗教的論理の典型です。なぜなら絶対であるものを神と呼ぶのですから)

 人々は真理を論じているのではなく、真理に対する己の理解力を競い合っているのです。つまり、言い換えれば人は真理を論じて、己のセンスを競い合う……というより、真理にいたらざるもの同士の言い争いですから、己のナンセンスさを競い合っているという方がより適切でしょう。

 一個人が理解しがたいものに対する見解の違いとは、どちらかの間違いであるより、相互補完的――つまり互いの見解を持寄ってこそより真実に近づくものなのです。それを見解の違いから同一事実を貶し合えば真実から遠ざかるばかりです。

 霊性向上が最大の重要事でありながら、霊性のなんであるかに意見が分かれる――滑稽に見えても現実を暗示しています。つまり人は「目的を果たすために生きている」のではなく、「目的を見出すために生きている」ということなのです。

 もう少し掘下げます。

「人生とはなんぞや?」――という疑問は、古今東西、多くの人々を悩ませます。評価は達成度で決るのです。人生の目的を果さずにどんな良き人生があるというのでしょう? そして、目的を知らずにどうして目的が果せるのでしょう?

 しかし、人は産まれてくる時も、場所も、境遇も選べません。……そして死すべき時も人は選べない。自殺という手段があっても成功するとは限らないのです。選択肢はかくも乏しく、悩みの種は滅多に尽きない。すると人生の主導権を握っているのは、全知全能の神(本当にいるのか?)ではなくとも、少なくとも己自身ではないらしく思われます。

 一体、個人の意志でどれだけ人生が変えられるというのでしょうか? その不自由な境遇を思えば、人は、「生きている」のではなく「活かされている」と考えるのが自然な見方でしょう。

 霊性のなんたるかを知らずに霊性を論じ、主導権もないのに人生を論じる。――人は、そして知性と自覚は、なんと矛盾したものでありましょう。しかし、人生に合理的な答えがないとは思えません。ただ、人は真実を認めるのが難しいだけなのでしょう。

 要するに、人類の知性・霊性のレベルは、真の目的を追求する以前の、真の目的を担えるだけの成熟さを追求すべき時期にある、ということなのです。そして、「真の目的」を理解するために、今の人生があり、目的を果たすための人生ではない――だからこそ、「霊性向上が人生の主たる目的」というのです。その事は一般家庭において考えれば理解しやすいことでしょう。

「家の手伝いはしなくていいから、あなたは勉強に専念しなさい。」

……と、いわれるのは果して誰か。子供扱されるのは子供にとって不愉快な事であったとしても、心身の発達が足りなければ手伝いはむしろ足手まといになるのです。

 霊性向上が人生の目的。それが現実で、現実から逃げても敗北が待っているだけです。しかし、目的を理解するためだけの人生とは何とも惨めに思えます。たとえそれが、精神的に子供であるが故に子供扱される事に不快の念を抱くのだ、としても……いや、ならばこそ、嬉々として「人生の目的は霊性向上にある」と語る人を見ると、気味悪くも思います。子供が大人に憧れるのも又、霊性の導きなのです。なのになぜ、人々は子供扱されることに歓びを見いだすというのでしょう! ―― 不愉快であっても、人は霊性向上のその後に見えるものを理解できず、その状況を抜け出すためにはやはり霊性の向上が必要なのです。

 すなわち、霊性の意味を知らず霊性を論じ、主導権を持たずに人生を論じるのは、成長過程の子供らの会話に比すべきものなのです。大切なのは真理よりもむしろ考え、悩み、そしてより深い洞察力を身につけていくことです。

 つまり、人類は未だ幼齢期にあるということです。幼齢期とはすなわち、独り立ちする以前の状態ということです。そして、多くの心霊思想は人類を幼齢期あつかいしているわけですが、幼齢期は安住すべき境涯ではありません。


2005年 03月 18日

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